「愛してる」、その続きを君に
朝の電車の中。
いつもと違う二人の微妙な雰囲気に、彼は戸惑っていた。
しかし、いつかこういうこともあるだろうと、覚悟していた部分も少なからずある。
それにしても隠すのが下手な二人だ、嘘がつけないところもいいところなんだけど…と雅樹は内心笑ってしまった。
信太郎は意識しすぎて夏海に対してあまりにつっけんどんだし、彼女は彼女でやたらに自分に話しかけてくる。
そんな彼らの態度で雅樹は何もかも悟ってしまった。
「なっちゃん」
昼休み、雅樹は廊下側の窓から教室にいる彼女を呼んだ。
「なあに?」
「今日先に帰ってて。友達に数学教える約束しちゃってて。長引くと思うから」
「うん、わかった」
彼は夏海の表情をうかがうも、別段普段と変わらなかった。
「じゃあ、また明日ね」
教室に戻り席に着くと手早く次の授業の準備をすませるが、破れた恋の痛手が想像していたよりも大きいことに今さらながらに雅樹は愕然とした。
彼女の想いが信太郎に通じたんだ、喜んであげなくては…
そう思おうとしても、心のどこかで夏海が彼をあきらめて自分を見てくれる日がくるのではないかと、淡い夢を抱いていたのは確かだ。
そんな自分が愚かしい。
ノートを録る手に力が入り、何度もシャープペンの芯を折った。