「愛してる」、その続きを君に


その日から雅樹はいろいろと理由をつけては、夏海と一緒に帰ることを避けるようになった。


以前よりも1本遅い電車に乗って帰る。


それまでは教室に残り、勉強をするようにしていた。


一人で帰る道は思った以上に味気ない。


雅樹は吹きっさらしの豊浜駅に降り立つと、あまりの風の冷たさに身をすくめた。


「雅樹」


聞き覚えのある声が、そんな冷たい風にのって彼の耳に届く。


「信太郎…何?待ち伏せ?」


ダウンジャケットを着込んでいるものの、彼は寒さのあまり足踏みをしながら立っていた。


「ちょっといいか?」


「あまりよくない」


話があるんだ、そんな雰囲気だったが、わざと雅樹はそう返す。


「茶化すなって」


「ごめんごめん」


だいたいの話の見当はついていたが、彼は何も知らないふりをしようと決めていた。


雅樹はいつも思う。


この信太郎というやつは、普段はのらりくらりと交わすだけなのに、大切な話がある時にはこうやって自ら会いに来る。


電話やメールですませようとはしない。


そういうところが好きだ、逃げも隠れもしない、そういうところが。


いい男だ、と。



< 127 / 351 >

この作品をシェア

pagetop