「愛してる」、その続きを君に
その日から雅樹はいろいろと理由をつけては、夏海と一緒に帰ることを避けるようになった。
以前よりも1本遅い電車に乗って帰る。
それまでは教室に残り、勉強をするようにしていた。
一人で帰る道は思った以上に味気ない。
雅樹は吹きっさらしの豊浜駅に降り立つと、あまりの風の冷たさに身をすくめた。
「雅樹」
聞き覚えのある声が、そんな冷たい風にのって彼の耳に届く。
「信太郎…何?待ち伏せ?」
ダウンジャケットを着込んでいるものの、彼は寒さのあまり足踏みをしながら立っていた。
「ちょっといいか?」
「あまりよくない」
話があるんだ、そんな雰囲気だったが、わざと雅樹はそう返す。
「茶化すなって」
「ごめんごめん」
だいたいの話の見当はついていたが、彼は何も知らないふりをしようと決めていた。
雅樹はいつも思う。
この信太郎というやつは、普段はのらりくらりと交わすだけなのに、大切な話がある時にはこうやって自ら会いに来る。
電話やメールですませようとはしない。
そういうところが好きだ、逃げも隠れもしない、そういうところが。
いい男だ、と。