「愛してる」、その続きを君に
人気のない通りに来ると、信太郎は切り出した。
「もう気付いてるかもしれないんだけどさ…」
「何を?」
いつものように柔らかな笑みを浮かべる彼に、信太郎はどうしたものかと一瞬困った顔をする。
しかし、ここまで来たからには言うしかない、と唇をなめた。
「俺とナツ、付き合ってる」
静かな闇を切り裂くような大型貨物船の汽笛が、小さな町を駆け抜けた。
何度も何度もこだまし、長い時間かけてその音が消えていくのを彼らは待った。
「そっか、おめでとう」
雅樹が信太郎の肩を叩いた。
「ごめん、俺、おまえの気持ち知ってたのに…」
「謝ることはないって。なっちゃんはずっとおまえのことが好きだったんだし」
「でも…」
「信太郎、気にするなよ。俺たちは3人だろ?そのうちの一人が女の子なんだし、誰か一人があぶれる、それは目に見えてわかってたことだよ」
「雅樹」
「そんな辛い顔しないでくれよ。喜ばしいことなんだからさ。なっちゃんに失礼だよ」
「…ナツがさ、最近おまえが避けてるんじゃないかって…」
「ああ、友達に勉強を教えてるんだよ。教えるのも自分のためになっていいんだ。だからだよ、避けてなんかない」
「ほんとか?」
「本当だよ。でもおまえから付き合ってるって聞いておいてよかったよ。危うく彼氏のいる子と並んで帰っちゃうところだったよ」
そう言っても、信太郎は冴えない顔をしている。
「さ、帰ろうよ。寒い寒い」
大げさに雅樹は身震いすると、信太郎を置いて歩き出した。
「ああ、そうだ信太郎」
雅樹の長めの髪が潮風になびく。
「俺たち、これからも友達、それでいいよな?」
振り返った彼の優しい笑顔に、信太郎は駆け寄ると乱暴に肩に手を回した。
「あったりまえだろー!ばぁか!」
「痛いって!」
「ひ弱だな」
「言ったな。なっちゃんを泣かせたら、俺が許さないからな」
再び貨物船の汽笛が、凍てつく空気を渡ってこだました。