「愛してる」、その続きを君に


信太郎は人が変わったように勉強をし始めた。


今の偏差値では到底K大は無理だ。


両親にああ言った手前、とことんやりきる覚悟を彼はしていた。


駅のホームでも電車の中でも、彼は常に参考書を開いた。


まさに寸暇を惜しむとはこのことである。


行きの電車には「先生」こと雅樹がいる。


前の夜に解けなかった問題があれば、彼に教えてもらうことにしていた。


夏海はそんな二人を微笑ましく思いながら、就職試験の勉強に取り組む。


ひとりひとりがそれぞれの道を目指して歩き始めたのだ。


いつしか半袖のカッターシャツが長袖になり、そしてコートとマフラーが必要な季節になっていた。


年が明け、センター試験までまと2週間を切った頃、夏海は雅樹と信太郎にあるものを手渡した。


「はい、御守り。一番よく効くのをもらってきたから」


「ありがとう」


「サンキュー」


「ふたりとも、風邪などひかぬように」


「ははぁー」


二人の青年は恭しく頭を下げると、噴き出した。


夏海から御守りを受け取ると、雅樹は遠慮したように「これから塾だから」と言って、そそくさと帰ってしまう。


気を遣わせている…夏海も信太郎も顔を見合わせた。


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