「愛してる」、その続きを君に
「え?」
頭をかく手が止まる。
「あげるよ、俺いらないもん」
「マジで!?」
信太郎はひざまずいて、マルコメ頭の男の子の肩を揺さぶった。
「顔が近いよ…ちょっと…」
迷惑そうにその子は顔をそむける。
それでも信太郎はズイズイと少年に近寄る。
「サンキュー!いい男だよ、おまえは!将来、絶対モテる。モテてる俺が言うんだから間違いない」
「ああ、そう。それはそうと…」
そう言いながら、マルコメ少年はちらりとある方向を見た。
「どした?」
「お願いがあるんだけど」
「おお、何だ。言えよ」
ドン、と拳で胸を打つ信太郎。
「あのお菓子くれよ、おもちゃも」
そして彼は、うず高く積まれた残念賞の駄菓子を指差した。
「もちろんだ、持ってけ!」
信太郎の左頬にえくぼができた。
彼は受け取ったビーチサンダルを小脇に抱えると、夏海の驚く顔を想像して口許が緩めた。
くじに夢中になってる間に随分時間が経ってしまった。
「ナツ、うるさいだろうな」と呟きながら、近くにあった一本300円のフランクフルトを3本買って、境内の裏へと急ぐ。
途中で夏海と雅樹の分の2本にしておけばよかった、と思った。
夏海に預かった千円札で買ったものの、自分のフランクフルト代を返す金がない。
このビーチサンダルに全財産をつぎ込んでしまったのだから。
本来400円あるはずののおつりが100円しかなかったら、誰が考えてもおかしい。
おつりは?と夏海に訊かれたら何てごまかそう…うまい言い訳を考えながら、信太郎は境内の裏へと急いだ。
「悪い悪い、待たせたな」
そう声をかけようとして、彼は咄嗟に身を翻した。
フランクフルトのケチャップが彼のTシャツについてしまったが、そんなことはどうでもよかった。
見てはいけないものを見てしまった…その感情が大きく彼を今支配している。
信太郎は持っていたブルーのビーチサンダルを無理矢理丸めると、ズボンの後ろポケットにねじ入れた。
「マジかよ…」