「愛してる」、その続きを君に
信太郎の勉強の邪魔をしたくなかった。
せっかくやる気を出しているのに、夢に向かう彼の足手まといにはなりたくなかったのだ。
「あー会いたかった、こうしたいってずっと思ってたんだ」
そう言って、信太郎が抱き寄せる。
「ちょっと、誰かに見られたらどうするのよ!」
「大丈夫だって。そうならないために、このクソ寒いとこに来たんだから」
「…そっか」
夏海もそっと彼の背中に腕を回す。
「ちょっと着膨れしすぎ。何枚着てるのよ、手が回らないじゃん」
「バカナツ。ダウンジャケットなんだから仕方ないだろ」
これじゃ彼の鼓動が聞こえない。
夏海は膨れっ面をするも、彼に包まれているという感覚に酔いしれ、瞳を閉じた。
がんばってね、信ちゃん…
センター試験当日は雪がちらついていた。
夏海は信太郎と雅樹を見送るために豊浜駅にいた。
「なっちゃん、どうしたの?もしかして見送りに来てくれたとか?」
先に姿を現した雅樹が嬉しそうに声をかけた。
センター試験という大イベントに、雅樹の母親の辻本薫と妹の遥も見送りに来ていた。
「きゃあーなっちゃん!」と遥がうれしそうに手をつないでくる。
「おはよ、遥ちゃん」と笑顔を向けた夏海の表情はすぐにぎこちないものになった。
「おはようございます、おばさん…」
雅樹の母、薫は冷たい視線で彼女を頭のてっぺんから足のつま先まで眺めると「あなたはセンター試験受けないの?」と問うた。
神経質そうな薫の瞳。
「もう、就職が決まってるので」
「どこに?」
「役場です」
ふん、とバカにしたように薫は笑った。