「愛してる」、その続きを君に
何事もなかったようにフランクフルトを食べ終えた三人は、気まずい雰囲気のまま露店の建ち並ぶ石畳の上を引き返していた。
夏海も動揺しているのか、おつりのこともすっかり忘れているようだった。
誰も何も言葉を発しない。
この重苦しい空気を何とかしたい、そう思ってるのは信太郎だけではないはずだった。
だけど、夏海も雅樹も一様に表情が沈んでいる。
意を決して、「おまえら、さっき何してたんだよ。見ちゃったぞ」なんてからかってみることも信太郎は考えたが、自分も何やらモヤモヤしたものが胸の奥底に渦巻いていた。
「ああ、そうだナツ。これ履けよ」
わざと思い出したように、信太郎はビーチサンダルを彼女の前に差し出した。
「え?どしたの、これ」
目をまんまるにして夏海は彼の手元と顔を交互に見る。
予想していた通りの反応に、彼は作り笑いしかできなかった。
「くじ引きしたらさ、当たったんだよ。俺って空気読める男だろ?」
無理して得意げに言う信太郎から、彼女はそれを嬉しそうに受け取った。
「あれぇ?」
「なんだよ」
「このビーチサンダル、妙に反り返ってない?」
ポケットに無理矢理突っ込んでいたのだから仕方ない。
苦労して手に入れたのに。
あんなところを見なければ、こうはならなかった。
「うるさいな、文句あるなら履くな」
「ううん!ありがと、信ちゃん」
夏海は早速信太郎の腕を支えにして下駄を脱いだ。
赤くなった親指の付け根が痛々しい。
そんな夏海の足をビーチサンダルはスポンジのように柔らかく、そして優しく包み込んだ。
「一回で当てたの?これ」
「あったりまえだろ」
「すごいねー、素晴らしい強運の持ち主!」
そんなやりとりを雅樹は何も言わずに見守っていた。