「愛してる」、その続きを君に
無言のまま、彼らは夏海の家の前までやってきた。
「今日は楽しかった。また来年も行こうね」と静かに彼女は言った。
行きとは比べものにならないくらい、彼女から快活さは失せていた。
その理由を彼ら3人は知っている。
妹のことで雅樹をからかってしまった気まずさ、なんかではない。
もっと、この3人の心を乱す出来事…
しかし、それを口に出す者はいなかった。
「おやすみなさい」
かろうじて出た微かな彼女の笑み。
「おやすみ…」
「ああ、またな」
雅樹と信太郎の言葉を確認するようにうなずくと、彼女はくるりと背を向けた。
その赤い帯が、まるで信太郎が選んだ風鈴に描かれていた金魚の尾のようだ、と雅樹は思った。
夏海を送り届けた二人は、三叉路まで無言で歩いた。
ここから信太郎は上り坂を、雅樹は下り坂をそれぞれ通って自宅に向かう。
「じゃあ」
軽く手をあげた雅樹に、信太郎は「ちょっと待て」と背後から呼び止めた。
「何?」
「その…」
「遥のことなら気にしてないよ。おまえがそういう意地悪な性格なことくらいわかってるし。何年の付き合いだと思ってるんだよ」
「そうか…」
「じゃ」
踵を返した彼を、信太郎はもう一度呼び止めた。
「雅樹」
「もう、一体何なんだよ?俺は家に帰れるのか?」
まだ何かあるのか、と苦笑しながら彼は振り返った。
「ちょっとさ、付き合ってくれよ」
ポケットに手を突っ込んだまま、信太郎は顎をしゃくった。