「愛してる」、その続きを君に
次の日の朝、市原医師に紹介された総合病院に向かう準備をしていると、起きてきたばかりの克彦が珍しいものでも見るような顔をして訊いた。
「なんだ、おまえ。今日は早朝出勤か?」
そう言っては、何度も目をこする。
「有休とったんだ。昨日市原先生のところに行ったら、おっきな病院で念のために検査したほうがいいって。ほら、おばあちゃんがお世話になったとこ」
「検査って、そんなに悪いのか」
先ほどまで眠そうだった父の目がつり上がる。
「やっだなーもう。念のためって言ったじゃん」
「だけど、夏海…」
「今日のお弁当、テーブルの上に用意してるから。じゃ、受付早くしないといけないから、私は行くね」
克彦のまだ物言いたげな姿を横目に、夏海は玄関を出た。
彼女が足を踏み入れたのは、奇しくも武子が脳出血で運ばれた病院だった。
豊浜の診療所では行えない検査や処置は、この一番近いこの総合病院で行われる。
市原医師の言った通り、朝一番で診察の手続きをしたのに、時計を見るともう昼前だ。
大きくため息をついて、待合いの長いすに背をもたげた時、
「佐々倉さま、佐々倉夏海さま」と若い看護師が彼女の名を呼んだ。
通された診察室にはこれまた市原医師が言った通り、おっとりとした白髪交じりの中年医師が夏海を見てにっこりとした。
「はじめまして、中島です。お待たせしてしまってすみませんでした。えっと、市原先生の紹介だね」
「はい」
「先生はお元気ですか?」
「はい、とても」
「だろうね、訊くまでもなかったな」と彼は目を細めたので、夏海もつられてくすっと笑った。