「愛してる」、その続きを君に
問診、聴診、触診を終えると、中島医師は血液検査の指示を看護師に出した。
採血を終えてしばらく待っていると、再度名を呼ばれ診察室に通された。
簡素なスツールに腰掛け、目の前の医師の顔をうかがう。
血液検査の結果だろう、中島はそれを見ながら下唇を噛んでうなった。
「ちょっと気になる数値が出ているから、胃カメラ撮りましょうか」
「胃カメラ、ですか?」
彼の柔らかな物腰とは裏腹の厳しい目つきに、得体の知れない不安がじわじわと彼女を支配し始めた。
「胃カメラは初めて?」
準備をすすめるうちに身体が強ばっていく夏海に、年配の看護師が気さくに声をかけてきた。
「麻酔もできるけど、どうする?」
「いえ、なんとか大丈夫です」
「そうお?じゃあ鼻で息をして、ツバは飲み込まないようにしてね」
するとそこに中島医師が白衣の裾をたなびかせ、サンダルをパタパタさせて入ってきた。
先端が鋭く光るものを確かめるように操作すると、「はい、じゃあいくねー。鼻で息してよー」と彼女の口の中へとカメラを差し入れた。
覚悟していたよりもスムーズにそれは夏海の喉を通過し、胃へと入っていった。
モニターを見ながら中島が時折胃カメラを回転させるごとに、多少の吐き気を感じたものの、画面に映る自分の胃の中をのぞき込む余裕さえ、彼女にはあった。
しかし、次の中島の言葉に、規則的に注意深く続けていた鼻呼吸が乱れ、むせそうになった。
「結構大きな潰瘍があるね。2センチ…いや3センチくらいかな。ちょっと組織を調べるから、何ヶ所か採りますよ」
そう言い終わるのが早いか否か、中島は慣れた手つきで夏海の胃の中から5カ所ほどの組織を採取した。
看護師に手伝ってもらいながら、身体を起こすと軽いめまいがした。
慣れない検査によるものか、それとも自分の胃の中に巣食う「潰瘍」を目の当たりにしたせいか。
ふらつく足で、夏海は中島医師の前に腰掛けた。