「愛してる」、その続きを君に


その週末、夏海の誕生パーティーが恵麻の提案でささやかながら行われることになった。


信太郎の夏期講習終了の「慰労会」も兼ねられている。


もっとも後者は、信太郎が勝手に言い出したものなのであるが。


せっかくなので雅樹も誘ってみたものの、遠慮したのだろう、大学の補習があるといって断られた。


料理は、というと誕生日パーティーの主役にもかかわらず、夏海が担当することになった。


それは自分が言い出したことである。


信太郎や恵麻には何かと世話になっているというのもあったが、何かをしていないと検査結果が気になってどうしようもなく不安になってしまうのだ。


彼女にとって料理をはじめとする家事は苦でもなんでもない。


母親がいなかったから当然のように、祖母の武子とやってきたからだ。


信太郎が魚の煮付けが食べたいと言うので、夏海はスーパーの鮮魚コーナーでそれに使うものを吟味する。


魚の目利きには自信があった。


小さい頃から武子にくっついてよく魚市場に行ったものだ。


そこでは揚がったばかりの魚の鱗と目が四方で光り輝き、潮の匂いのする男たちの威勢のいい声が飛び交っていた。


本当はそんな豊浜の市場で買った魚を食べさせてやりたいが、夏のこんな暑い日に持ってくると鮮度が落ちてしまう。


信太郎は野菜のたくさん入ったカートを押しながら、夏海のあとをついてきていた。


ちょっとした新婚気分に浸りながら、彼女はパックを手にとった。


「へぇ、もう鯖がでてるんだ。信ちゃん、今日は鯖の味噌煮でいい?」


鯖は目が澄んでいて、エラが鮮やかな紅色、表面の模様がはっきりしているものがいい。


「おお、いいねー」


夏期講習の授業が堪えたのか、それとも夏の暑さのせいか、痩せて左頬のえくぼが少し深くなった気がする。



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