「愛してる」、その続きを君に
片方の手に買い物袋、もう片方の手はお互いの手を握り、薄暗くなった街を二人は歩いていく。
いつもは人前で手なんてつなぎたがらない信太郎なのに、今日はどういう風のふきまわしだろう。
何かしら彼女の不安に気付いているのかもしれない。
その不安がどんなものか彼にははっきりとはわからないにしても、肌を触れあわせていたい、そう思わせる何かがあるのだろう。
ねぇ、信ちゃん、私もしかしたら大変な病気かもしれない…でもきっと思い過ごしだよね…
彼の横顔を見ながら、そう心の中で呟く。
もうすぐ検査結果が出る、そのことを彼女はやはり信太郎に告げることができなかった。
なぜならこうして彼といると、何もかも夢なのではないかと思えてしまうからだ。
ちょうど見上げた紫色に染まった西の空に、細い細い三日月と、一番星が寄り添っていた。
そんな不安を打ち消すかのように、夏海は小さい頃によく口ずさんだメロディーを大きな声で歌った。
「いちばんぼーしーみぃつけたぁー」
通りゆく人達が、振り返る。
「ばっか、恥ずかしいだろ。やめろって」
信太郎が慌ててつないだ手を引っ張る。
「カッカすんなよーゆでタコみたいだぞー」
夏海は先ほどの彼の言葉をそっくりそのまま返す。
「うるさいっ」
ケタケタと笑う彼女に、信太郎も「ったく、バカナツ」と頬を緩めた。