「愛してる」、その続きを君に


恵麻のマンションの台所を借りて、夏海は早速調理に取りかかる。


魚をさばくことなんて、朝飯前だ。


そんな彼女の手つきに感心しながら、信太郎が後ろをチョロチョロと動き回る。


「ちょっと信ちゃん。後ろに立たれると気が散るんですけど」


「あ、悪い。でもナツばっかりに働かせて悪いかなぁって」そう言って小鼻をかく。


「大丈夫だから、勉強でもしててよ」


「あーっ、今日くらい勘弁してくれよ。慰労会なんだからさ」


彼は伸びをしながら、リビングのソファーに倒れ込んだ。


もう、と夏海はテレビのリモコンを手に取り、


「これでも見て、いい子にしてなさい」とスイッチを入れた。


明るい歌声が部屋に響き渡る。


子ども向けの歌番組だった。


歌のおにいさん、おねえさんが着ぐるみで、歌っては踊る。


にっと笑うと彼女は再びキッチンに戻っていく。


「おいおい、何歳だよ、俺は」と彼の声を聞きながら、夏海はくつくつと鯖の切り身が熱さに身もだえする鍋の中に、味噌を溶かし込んだ。

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