「愛してる」、その続きを君に
「おっそいなぁー信ちゃんたち」
駅まで恵麻を迎えに出た信太郎が、もう1時間近く帰らない。
ここからだと徒歩で5分ほどだ。
ケーキを選ぶのに手こずっているにしては、時間がかかりすぎる。
もしかしてホールケーキが売り切れで、少し遠くのお店まで足を運んでいるのだろうか。
携帯を何度もチェックするが、信太郎からも恵麻からも連絡は入っていなかった。
こちらから電話をしてみようかとも思ったが、取り越し苦労かもしれない、もう少し待ってみようと考え直し、夏海はバルコニーに出た。
都会特有ののムワッとした威圧的で暑い空気が肺にまで入ってくる。
一人になると、また例の不安が彼女を襲い始めた。
ただの胃潰瘍であってほしい。
でも大学病院に病理検査を出さねばならないほどなのだろうか、それが疑問だった。
W大の医学部にいる雅樹に相談してみようか、という考えが一瞬頭をよぎる。
すると、どこからともなく赤色燈をテラテラとちらつかせながら、何台もの緊急車両が駅方面に向かって、渋滞する車の列を避けながら縫うように走って行く。
複数のサイレンの音が幾重にも重なり合って、救急車なのかパトカーなのか、はたまた消防車なのかすら遠目ではわからない。
それらが近付いてくるにつれて、あまりにもけたたましくなるその音に、事態の深刻さがうかがえた。
夏海は不安げに外から部屋の時計を見た。
午後8時になろうとしていた。