「愛してる」、その続きを君に


温かな手がそっと自分の手の甲をさする感触に、夏海はうっすらと目を開けた。


ああ、きっと彼に違いない。


自分は怖い夢を見ていたんだ。


うなされていたから心配して、こうやって手をつないでくれてるのだ。


「…し…信ちゃん…?」


重い瞼を彼女はやっとのことで持ち上げた。


「なっちゃん?」


耳に届いたその声に、夏海は咄嗟に手を引くと上半身を起こした。


めまいが容赦なく襲い、思わず口元を押さえる。


「無理しちゃダメだよ」


その人物はそっと夏海の肩に手を置くと、横になるように促す。


「…マーくん…なんで?」


「なんでってことはないだろう。君が倒れたって聞いたから来たんだよ」


そう聞いて、彼女は初めて仰向けのまま周りを見渡した。


白い天井、壁、シーツ…


そして手首に刺さった点滴針。


管をたどっていくと頭上に点滴台があり、それに下げられた薬剤がじれったいテンポで落ちてゆく。


「…ここ…」


「市原診療所。ちょっと興奮気味だったから先生が鎮静剤を」と雅樹は点滴を見上げる。


ああ、連れて帰ってこられたのだと思った。


途端に、途切れた記憶が順を追って繋ぎ合わさってゆく。


次第に逃れられない事実に夏海は気付くと、嗚咽を漏らした。


涙がこめかみまで伝い、髪を濡らす。


「なっちゃん…」


雅樹の声も震え、辛そうに顔も歪む。


全ての事の成り行きを、彼は知っているに違いなかった。


「克彦おじさんと市原先生、下で話してるから呼んでくるよ。なっちゃんが目を覚ましたって」


夏海の痛々しい様子を見ていられない、といったふうに雅樹は席を外した。


それに答えることなく、彼女は漏れ出てくる声を抑えきれずに声をあげて泣いた。

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