「愛してる」、その続きを君に
市原医師を前にして、克彦の顔は強ばっていた。
「先週総合病院で採取した組織を大学病院で検査してもらったんですが…」
「大学病院!?」
克彦が驚きの声をあげた。
その反応に知らなかったのか、と言わんばかりに市原医師が目を白黒させる。
「ええ、W大病院ですが…」
「あいつそんなこと一言も…」
なぜそのことを父である自分に隠していたのか、という含みを持たせた言い方を克彦はした。
「なっちゃんを診察した総合病院の中島先生が、気になって早めに検査結果を取り寄せてくれたんです。しかし、今こういう事態になってしまってあちらに行くことは難しいかと…」
こういう事態、それは信太郎の件で夏海の受けた精神的ショックの大きさを意味していた。
「そういうわけで私に結果を伝えるようにと、送ってくれたわけです」
「そうだったんですか…で、結果は?」
気を取り直した克彦が身を乗り出して訊くと、市原は眉間に皺を寄せ咳払いを一つした。
「採取した組織からはガン細胞は発見されませんでしたが、W大のほうから念のために大学病院で受診してみては、と」
「念のためとはどういうことですか。異常はなかったんですよね?だったらわざわざ検査に行く必要はないでしょう?」
克彦はにじみ出る汗をしきりにぬぐいながら、問うた。