「愛してる」、その続きを君に
警察署内の留置場は夏場なのにひんやりしていた。
それは冷房がきいているから、そんな単純な理由ではない。
無機質な壁と、鉄格子。
あたたかみなど感じるものは何もない。
浅い眠りから覚めた時、まだ自分は夢の続きを見ているのだと思った。
取り調べ一日目。
グレーの簡素なテーブルの向こうに、刑事がふたり。
ひとりは父親と同年代の、はげ頭で関西弁丸出しの桜井という中年刑事。
そしてもうひとりは若くて、甘いマスクの加瀬という刑事だった。
その二人の刑事の前で、天宮信太郎はただ黙ったまま、目を伏せていた。
黙秘、そんな小賢しいことをするつもりは、さらさら彼にはなかった。
ただ、まだ自分の身の上に起きたことが実感としてない。
どうしてここにいるのか、そればかり自らに問うてみるが、ショートした思考回路では姉の恵麻とケーキを買いに行く途中だったことまでしか思い出せなかった。
二人の担当刑事は、そんな信太郎が話し始めるのを辛抱強く待っていた。
時折、「お腹すいてへんか?」「喉、渇いたやろ?」と年配の桜井刑事がのぞき込むように訊いてきたが、信太郎は首を横に振るだけだった。