「愛してる」、その続きを君に

取り調べ二日目。


桜井が部屋に入るなり「おい天宮、おまえ食事をとってへんらしいやんか」と開口一番、眉を潜めて言った。


そんなもの喉を通るはずがない。


留置場で一人になると、白い光に浮かび上がったあの男の、手足の奇妙に折れ曲がった様子が蘇り、幾度となくえづいてしまうのだ。


そんな状態で食事など…と思うが、信太郎は「はい…」と消え入るような声で返事をしただけだった。


その日も身体も気持ちもどこかしらフワフワしていて、事件に関して何も話せなかった。


何時間にもわたって世間話をしてくる桜井刑事にふと父親の姿を重ね合わせて、今頃家族はどうしているのだろう、と彼は思った。


きっと家に閉じこもって、小さくなっているに違いない。


あの閉鎖的な豊浜の町で…


そうあの町で…


自分が生まれ育ったところ。


笑い、悩み、そして恋をして…


「…ナツ…」


「え?」


思わず呟いた彼に、二人の刑事が身構えた。


「今、なんて?」


目の前の中年刑事が身を乗り出す。


その汗ばんだ広い額を見ながら、信太郎はあることを思い出した。


彼女をあのマンションに残したままだ。


ああ、そうだ、ケーキを買いに行って、恵麻と自分と彼女の三人で誕生日を祝うはずだったのだ。


遅いって今頃彼女は怒っているのではないか。


料理が冷めてしまって、きっとブツクサ文句を言うに違いない。


早く戻らなきゃ…。


プレゼントだってせっかく用意してるのに渡せてないじゃないか。


いてもたってもいられず「帰らなきゃ」と信太郎は勢いよく立ち上がった。




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