「愛してる」、その続きを君に
「天宮?」
「俺、帰らなきゃ。待たせてるやつがいるんです。ちょっと帰ってもいいですか」
頬はこけ、目の下に青黒いクマを作り瞳だけがギラギラと異様な光を放つ。
「どうした、天宮」
若い加瀬刑事が、立ち上がった信太郎の肩にそっと触れた。
「悪いんだが、君は帰れないんだ」
「どうして!あいつが待ってるんですよ!」
「落ち着いて」
なだめるように加瀬は信太郎を座らせる。
「お願いです!帰してください!」
目の前の青年の不安定な精神を察知した桜井が、哀れむような瞳を向けた。
「ほな、今日はもうこのくらいにしとこか」と顎を撫でる。
「お願いします!ほんのちょっとでいいんです!帰らせてください!」
留置場に戻された信太郎は、ひんやりとした重苦しい空気に我に返った。
自分のしでかしたことが、ひしひしと順を追って思い出された。
脳裏に蘇る「あの夜のこと」が、まるで映画を観ているような感覚だった。
全てのフィルムが巻き終わったように、彼のその記憶映像も途切れる。
長い間、信太郎は膝を抱え小さくなっていた。
しかし、一度震えだした身体は次第に大きく揺らぎ、彼は突然大声で叫びだした。
拳を固い壁に何度も打ち付ける。
警察官が錠を外し、彼を止めに入った。
どうしてあんなことをしてしまったのか!
姉のためだったとはいえ、あの男にも家族がいたのに。
自分はその人たちから夫を、そして父親を奪ってしまったのだ。
その罪の大きさに、彼の心は怯え、押し潰されそうだった。