「愛してる」、その続きを君に
48時間の拘留期限が切れ、信太郎の取調期間は延長された。
次の日、取調室に入った信太郎は憔悴しきった様子だったものの、ぽつりぽつりと「あの夜」のことを語り始めた。
運命を分けたともいえる、あの日。
彼は夏海をマンションの部屋に待たせたまま、恵麻を迎えに駅へと急いだ。
いつものように恵麻は改札を出てくると、信太郎に笑顔で手を振る。
「ご苦労、ご苦労」
「何さまだよ、おまえは」
苦笑しながら彼は「早くケーキ買いにいくぞ」と顎をしゃくった。
「なっちゃんは?」
「部屋で待たせてる」
恵麻は会社の同僚に聞いたという評判のいいケーキ屋に行こうと言い出した。
「は?こっからだと遠いじゃん」
「いいから、いいから。もうお昼休みに電話して、ホールケーキ用意してもらってるんだぁ。すっごいおいしいんだって」
「そういうことには労を惜しまないんだな」
呆れる弟の背中を、恵麻は「ほらほら早く!」と上機嫌で押した。
ケーキ屋に向かう途中、「こっちが近道だから」と急で長い石段を恵麻が指さした。
その階段の先には小さな公園があり、丘の上の住宅街の住人がショートカットによく使っていた。
遠回りして緩やかな坂道をダラダラ登るよりは、階段を使って公園を横切ったほうがいいと思うのだろう。
「重労働だな」
「文句を言わない。かわいい彼女のためでしょ」
ショルダーバッグを反対の肩にかけ直すと、ヒールを高々と鳴らし彼女は先に階段を上がり始める。
やれやれ、と言わんばかりの表情でポケットに手をつっこんだまま、信太郎も急な階段に足をかけた。
「ったくよぉ、わざわざこんなに汗かいてまでケーキを食いたいとは思わないよなぁ、フツー」
恵麻の軽快なヒールの音を聞きながら、そうぼやく。