「愛してる」、その続きを君に
「姉につきまとうのはやめてもらえませんか。これ以上続くようなら、警察に届けます」
「ほう、威勢のいい弟くんだな」
「どうなんですか、やめてもらえますよね」
高林は、信太郎の肩越しに怯えた恵麻の顔を見ると、笑って満足そうに頷いた。
その顔があまりにも不気味で、恵麻は思わず顔をそむける。
「ちょっとあんた」
たまらず信太郎が男の肩を突くと、大げさなくらいに彼は後ろによろめいた。
「おっとぉ、暴力はよくないな」
「金輪際、姉には近寄らないでください」
そうきっぱりと言い切ると、彼は姉の肩を抱いて階段を下りようとした。
そこに高林のバカにしたような声が二人の耳に届いた。
「けっ…あばずれが…」
「…んだと?」
片眉をつり上げた信太郎が振り返る。
「もういいから!挑発にのっちゃダメだって、信太郎。行こっ!」
恵麻が何度も弟の腕を揺さぶった。
「今…何て言った?」
「あばずれって言ったんだよ!」
唾を吐き捨てると、高林は不敵な笑みを浮かべ続けた。
「おまえの姉貴はな、俺の子を妊娠してたんだ。なのに堕ろした。知らなかっただろ?」
信じられない、見開いた信太郎の目が恵麻に向けられると、彼女は苦しげに瞳を閉じたまま、うなだれた。
「…恵麻、コイツの言ったこと、ほんとか?」
低く絞り出すような声で訊ねる弟に、彼女はゆっくりと頷いた。
「なんでそんなこと…!!」
「だって仕方ないでしょ!この人、奥さんも子どももいたのに黙ってた!独身だって嘘ついてた!妊娠したって私が打ち明けた時に初めて妻子持ちって知らされたのよ!そんな人の子を産める?私にはどうしてもできなかった…」