「愛してる」、その続きを君に
今、目の前の綾乃は、夏海に渡された便箋を丁寧に折ると紅葉の描かれた封筒に入れた。
「じゃ、宛名を書いて出しておくわね」
「ごめんね…」
「いいのよ。いつかいっぱいおごってもらうから」
「了解」
夏海の水分のなくなった手は、力を入れると小刻みに震えるようになっていた。
信太郎宛に書く手紙もやっとの思いだ。
彼には未だに病気のことは知らせていない。
知られたくないのだ。
力弱い字を見た彼が心配しないように、右の手首を左手でしっかり押さえてペンを握る。
「あれ、児玉さんも来てたの?」
雅樹がひょっこり夏海の病室に顔をのぞかせた。
「マーくん、こっちに帰ってきてたの?」と夏海は目を丸くした。
「まぁね」
こんにちは、と綾乃は席を立ち彼に向かって軽く頭を下げる。
「こんにちは、児玉さん。わがまま姫のお使い?大変だろ?」
彼女の手にしている封筒を見て、雅樹が冗談めかして言う。
「ええ、とっても」
綾乃も笑う。
「ちょっと、二人ともどういう意味?」
夏海がゆっくりと横になった。
最近は身体を10分起こしているだけでも、ぐったりするほどに疲れる。
「なっちゃん、体調はどう?」
「うん、変わらず」
綾乃は気を遣ったのか、「じゃあ、私はこれで」とコートとバッグを手に取った。
「綾乃さん、いつもありがとうね」
「また来るわ」
朗らかに笑うと、綾乃は雅樹に目礼し、部屋を後にした。