「愛してる」、その続きを君に
「児玉さん、よく来てくれるの?」
「うん、話し相手が必要でしょって言ってくれて」
「…信太郎への手紙を彼女にことづけてるの?」
「…お父さんにお願いすると、なんだか悲しそうな顔をするから…」
夏海は雅樹の視線から逃れるように、窓の外を見た。
信太郎からの返事は一度もない。
彼の拘置所での手紙のやりとりは、制限されていないと聞く。
なのに一度も連絡がない。
じれったくって仕方がなかった。
今日こそは、今日こそは…そう思って、克彦が病室を訪れる度に「手紙来た?」が夏海の第一声だった。
恋人から全く音沙汰のない状況でも、手紙を書き続ける病床の娘を気の毒に思うのだろう、克彦に手紙を託すと何とも言えず切ない笑顔を見せ、「出しておくよ」と言うのだ。
だから父には頼まない、頼めない。
そんな顔をさせてしまうことが、心苦しいのだ。
でも信太郎に手紙を書くことは、やめられない。
彼と何らかの形でつながっていたい。
そんな思いを抱えていた時、綾乃が「私にまかせて」と言ってくれた。
「信太郎からの返事は…?」
わかってるくせに、そう夏海は思った。
「ないよ。ないけど、でも私がいつも信ちゃんを想ってるって伝えたいから…」
だから書くのだ。
欲を言えば返事が欲しい。
彼の今の思いを知りたい。
胸の上で組まれた指に力が入った。
気を緩めると涙が出そうになる。
病気のこと、彼の長引く裁判のこと、父のこと…
「さっきの手紙にも、1行でいいから返事をくださいって書いた」
ため息混じりの「そっか…」という雅樹の声が聞こえたきり、二人は無言でどんよりとした空を眺め続けた。