「愛してる」、その続きを君に
自宅に戻った雅樹を待ちかまえていたのは、中学生の遥だった。
夏に会った時よりも女らしい体つきになり、唇もほんのりと色づいている。
「お兄ちゃん!おかえり!」
そう言って、玄関の上がり口で飛び跳ねて喜ぶ。
「遥、何だよその唇。中1のくせに色気づいて」
「もぉ、お父さんみたいなことを言わないでよ」
短く笑って、雅樹は妹の頭を撫でた。
「お母さんがね、お兄ちゃんが帰ってくるからって張り切っちゃって!今夜はとびきりのごちそうなんだって」
靴を脱ぎ、大きなバッグを方にかけ直すと、「それは楽しみ」と彼は2階への階段を上る。
その後を子犬のように遥が付いてきた。
「ねぇ、いつまでこっちにいるの?月曜日からはまた大学でしょ?どうして冬休みでもないのに帰ってきてくれたの?ねぇ」
「質問が多いよ」
「ねぇー」
「んー?内緒だよ」
「けちぃ。じゃあ、来週いっぱいいてよ。大学、さぼっちゃえ!ね?いいでしょ?」
「はははっ。もうちょっとしたら、お兄ちゃんなんて帰ってこなくていいと思うようになるよ」
「そんなことないもん。私、お兄ちゃんのこと大好きだもん」
「その言葉、ありがたくちょうだいするよ。じゃあ、着替えるから」
そう言うと、雅樹は自室のドアを閉めた。
どさり、と無造作に荷物を床に下ろすと、彼はベッドに横たわった。
身体の沈む感覚に目を閉じる。
懐かしい匂い。
たまに実家に帰ってくると、今までこんな匂いに包まれて過ごしてきたのだと改めて気付く。
雅樹はうっすらと瞼を持ち上げた。
今夜、彼は両親に大切な話をするつもりだった。
反対されるのは目に見えていたが、後悔だけはしたくない。
一生のうちの今の一部分を、「あること」のために使いたい。
まずはどうやって切り出そうかと、大きな深呼吸を何度も繰り返した。