「愛してる」、その続きを君に

テーブルには刺身をはじめ、豊浜の海で採れた新鮮な魚介がところせましと並べられていた。


父親の寛治はもともと寡黙な性格であるため、黙って頷くことの方が多く、会話のほとんどは母の薫と妹の遥だった。


母は大学生活のことをあれやこれやと訊いては、嬉しそうに頷いた。


食事も終盤にさしかかった頃、遥の何気ない一言で、今までの和やかな空気が一瞬にして重苦しいものに変わってしまった。


「ねぇ、なっちゃんってこっちに帰って来てるんでしょ?あ!だからお兄ちゃんも今回帰ってきたんだぁ」


夏海の病気のことは、すでに町中の人が知っていると言っても過言ではない。


それほど小さな町なのだ。


「うん、今は市原先生のところにいるよ」


「お兄ちゃん、こっちにいる間にお見舞い行くでしょ?私も一緒に行ってもいい?」


「ああ、いいよ」


そう雅樹が答えたところで、母の薫がぴしゃりとテーブルに箸を置いた。


「だめよ、あんたたち」


「どうして?」


兄妹は、きょとんとして顔を見合わせる。


「天宮くんのことがあったでしょ。佐々倉さんは彼と付き合ってたのよね。そんな人と親しくしてたら、うちまで何を言われるかわかったもんじゃないわ」


「母さん、それは関係ないよ」


「いいえ!あの事件があってから、近所中の人に天宮くんと雅樹は仲が良かったわよねって嫌味を言われたのよ」


「気にしすぎだよ。第一、信太郎は…」


「雅樹!」


息子の言葉を遮るように、薫は両手でテーブルを打った。


整然と並べられていた皿たちが、一瞬だが一斉に音を立てる。


遥は驚き身体を強ばらせて兄と母を見つめるが、父の寛治だけはただ黙って箸を動かし続けていた。


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