「愛してる」、その続きを君に


「話って何?」


苛立ったように薫が訊く。


しかし、母には見向きもせずに雅樹は父に向き直ると、突然頭を下げた。


「しばらく休学させてください」


その言葉に母の短く息を吸う音が聞こえたきり、物音ひとつしなくなった。


「その間の学費は、必ず返します。だから…」


「な…」


わなわなと薫の手が震えた。


「何を言ってるの!!」


まさしく悲鳴だった。


寛治は目を伏せ、うなる。


「雅樹!理由は!?理由は何!もしかして授業についていけないの!?ねぇ!どうなの!」


薫は真っ青な顔で身を乗り出してきた。


けれど、雅樹は決して母を見ようとはせず、父の返答を待っていた。


「雅樹!母さんの質問に答えなさい!」


とうとう薫が泣きわめいた。


「おまえは少し黙っていなさい!」


カッと見開いた寛治の目が、薫を身じろぎ一つさせなくした。


それほど威圧的で、何者をも逆らうことは許されない雰囲気を父は発していた。


さすがF工業豊浜支社を取り仕切る器量はある、とこんな時にでも雅樹は冷静にそんなことを思っていた。


母が口を開く気配がないとわかると、寛治は低い声で理由を訊ねた。


「彼女のそばにいたいんだ」


「彼女?」


「そう、なっちゃんのそばに」


すかさず何かを言おうとする母を手で制すると、寛治はその話の続きを雅樹に促した。

< 262 / 351 >

この作品をシェア

pagetop