「愛してる」、その続きを君に
「話って何?」
苛立ったように薫が訊く。
しかし、母には見向きもせずに雅樹は父に向き直ると、突然頭を下げた。
「しばらく休学させてください」
その言葉に母の短く息を吸う音が聞こえたきり、物音ひとつしなくなった。
「その間の学費は、必ず返します。だから…」
「な…」
わなわなと薫の手が震えた。
「何を言ってるの!!」
まさしく悲鳴だった。
寛治は目を伏せ、うなる。
「雅樹!理由は!?理由は何!もしかして授業についていけないの!?ねぇ!どうなの!」
薫は真っ青な顔で身を乗り出してきた。
けれど、雅樹は決して母を見ようとはせず、父の返答を待っていた。
「雅樹!母さんの質問に答えなさい!」
とうとう薫が泣きわめいた。
「おまえは少し黙っていなさい!」
カッと見開いた寛治の目が、薫を身じろぎ一つさせなくした。
それほど威圧的で、何者をも逆らうことは許されない雰囲気を父は発していた。
さすがF工業豊浜支社を取り仕切る器量はある、とこんな時にでも雅樹は冷静にそんなことを思っていた。
母が口を開く気配がないとわかると、寛治は低い声で理由を訊ねた。
「彼女のそばにいたいんだ」
「彼女?」
「そう、なっちゃんのそばに」
すかさず何かを言おうとする母を手で制すると、寛治はその話の続きを雅樹に促した。