「愛してる」、その続きを君に
「ねぇ、母さん」と雅樹はなだめるように薫に向き直った。
「俺と母さんはどんなに離れていても、血はつながっている。この世界がどうなろうとも、親子だという事実は決して変わらないし、その絆は切れない」
穏やかな雅樹の眼差しが母に注がれる。
「だけど、なっちゃんと俺の間には確かなものが何もないんだ。離れてしまえば途切れてしまう、そんな脆いものなんだよ」
「でも、あの子は天宮くんと…」
「わかってる、それでもいいんだ。なっちゃんが信太郎と何とかしてつながっていたい、そう思って手紙を書き続けるように、俺だってなっちゃんと何とかしてでもつながっていたい」
「雅樹!」
「彼女を愛してるんだ」
「あ…愛し…?」
息子から飛び出した思いもよらぬ言葉に、薫は力が抜けていくかのように背もたれに身体を預けた。
長い長い沈黙。
ピン、と張り詰めた空気。
永遠に続きそうな静寂を破ったのは、父の寛治だった。
「わかった」
低い声で一言だけ呟く。
「あなた!」
「おまえの人生だ、おまえの好きなように生きなさい。ただし、父さんは留年した分の学費は払わない。全ての責任はおまえが持ちなさい。『もう』ハタチなんだから」
その言葉に、雅樹はホッとしたように顔を緩めた。
「ありがとう」
穏やかでないのは薫だ。
「絶対に認めない。雅樹、今は頭に血が上っているだけよ。何か佐々倉さんに言われたの?あの子ったら、優しいあんたにつけこんで…」
「もうやめてよ、なっちゃんはそんな子じゃない。俺が自分で決めたことなんだから」
「騙されてるのよ、母さんがちゃんと話をつけてきてあげるから」
「やめてくれって言ってるだろ!」
雅樹はうんざりしたように、テーブルをドンッと両手で叩いた。