「愛してる」、その続きを君に
幼い頃はよく砂の城を作って遊んだ。
3人の中でも、信太郎が一番上手で、何日も彼の「作品」は崩れることはなかった。
夏になれば海で泳ぎ疲れて寝そべる彼を砂に埋めた。
顔と手足だけを出した信太郎が、カメみたいで大笑いしたこともあった。
成長するにつれて、この砂浜で遊ぶことはなくなったけれど、つい数ヶ月前まではここで何度も見つめ合い、唇を重ね合わせた。
海と空だけが知っている、ふたりの確かな想い。
悔やんでも悔やみきれない、あの夏の夜のことが頭をよぎった。
どうして無理にでも彼についていかなかったのか…
自分があの場所にいても、もしかしたら事件は防げなかったかもしれない。
けれど、そう思わずにはいられないのだ。
ふいにどこからか、陽気な笛の音が耳をかすめた。
夏海と雅樹は顔を見合わせる。
「リコーダーだね、これ」
ランドセルを背負った男の子が数人、聞き覚えのあるメロディーを拭いては大騒ぎしている。
そうやら彼らのうちの一人が、同じところで何度も間違ってしまうのをひやかされているようだった。
「ねぇ、今日は何曜日?」
思い出したように夏海は訊いた。
「水曜日だよ」
「水曜…マーくん、学校は?冬休みのわけないでしょ。昨日も一昨日もお見舞いに来てくれたけど」
隔離された部屋の中で四六時中過ごすせいで、彼女にとって日にちや曜日など気にしたことがなかったけれど、今日は平日なのだ。
皆は仕事や学校に行っているはずなのに、どうして雅樹はここにいるんだろう、と不思議に思った。
「まぁ、そんな細かいこといいじゃないか。俺だって授業をサボリたい時もあるんだよ。クラスの人間関係とかもいろいろあってさ。気が滅入っちゃって。ここに戻ってくれば心の充電になるんだ」
「本当に?」
「うん、本当」
「マーくんも大変なのに、いつもありがとうね」
そう言って笑う雅樹の横顔を食い入るように、夏海は見つめた。