「愛してる」、その続きを君に
「そんなことよりさ、こんなにいい天気なんだからしっかり楽しまなくちゃ」
雅樹が話題を変えるように、海に視線を移した。
「ねぇ、マーくん」
「うん?」
「…実はね」
「うん」
「実は私、怖いんだ」
「怖い?」
「今のまま生きていくことが」
「…なっちゃん」
「見て、私の顔。目の下には真っ黒なクマ。髪も薄くなってどんどん醜くなっていく」
「薬の副作用だからだよ」
「ううん…鏡を見るたびに自分の知らない人が映ってるって思う。そんなの嫌。どうせ死ぬなら、もっとマシな姿で死にたい」
「軽々しく、死ぬなんて言葉を使うもんじゃないよ」
悲しそうな顔の雅樹を見て、信太郎ならきっとこう穏やかに諭さない、そう夏海は思った。
きっと「バカナツ!」と怒鳴って、この頬を叩いてくれるだろう。
そしてその後は強く、誰よりも強く抱きしめてくれるに違いない。
そうしてくれる人は、天宮信太郎、その人以外にいないのだ。
「もう何の治療もしたくない。辛いだけだから…最後は穏やかに逝きたい」
「なっちゃん!」
「もういい、もう充分」
「信太郎に会うんだろ!なんでそんなに弱気なんだよ!あいつが帰ってきたら、ふたりでいろんなところに行くんだろう?」
ああ、そうだった…と彼女は目を閉じた。
岡山の美星町…星の降る町。
そこに連れてってくれる、そう言ってたっけ、と遠い記憶が蘇る。
「あきらめないでほしいんだ。信太郎の代わりに、俺がついてるから」
雅樹が夏海の手を握った。
熱を帯びたその手に、彼女は涙が溢れた。
本当は生きたい、生きたいに決まってる。
一目、彼に会いたいから。
もう一度、彼に触れたいから。
ひしひしと湧き上がってくる想いに、夏海はむせび泣いた。