「愛してる」、その続きを君に
診療所へ戻ると、克彦が待ってましたとばかりに駆け寄ってきた。
「疲れなかったか?辛いところはないか?」
「もう、お父さんってば。マーくんという将来のお医者様がついてるんだから大丈夫だって」
夏海があきれたように力なく笑い、手を振った。
行きと同じように克彦が夏海をおぶって2階の病室へとあがった。
雅樹が帰った後、ベッドに横たわる際の腹部のひきつるような痛みに、彼女は思わずうめき声をあげた。
「夏海!」
おろおろする父の様子に、かすかに彼女は笑った。
「大丈夫、大丈夫…いつものことだから」
「また水が溜まってきたのかな」
不安げに娘の腹部に目をやる克彦に、夏海はあえて明るく言った。
「ねぇ、お父さん。今日はすごく気持ちよかったよ。海も空も真っ青で…やっと見られたぁ、あの青…」
思い出すかのように目を閉じると、市原医師がノックをして部屋に入ってきた。
「おかえり。気持ち良かっただろう?」と脈を計る。
「うん、とっても…」
「だろうね、すごくいい顔をしてるよ」
ふふっと笑うと、夏海は押し寄せる睡魔に飲み込まれるように微笑んだまま、あっという間に寝息を立て始めた。
「相当疲れたんでしょうね」
そう言って振り返った市原の顔が深刻なものであることに、克彦は身構えた。
「佐々倉さん、今後の治療についてお話があります。1階の診察室に来ていただけませんか」
しきりに眼鏡を持ち上げる市原の様子に、克彦の胸は言いようのない不安でいっぱいになった。