「愛してる」、その続きを君に
「天宮くんがあんなことになって寂しくなったら、次はうちの子に乗り換えるんですか」
その言葉に克彦は不快感を隠すことができなかった。
「どういう意味ですか?夏海が雅樹くんをいいように利用している、そうおっしゃりたいんですか」
「そうでしょう?違いますか?夏海ちゃんがあの子に何か言ったとしか思えません。雅樹は、あの子は優しい子だから断りきれずに…雅樹は将来医者になるんです。今が大事な時なんです!」
克彦は腕にしがみつく薫の手を振り払った。
「夏海はそんな子じゃない!」
「じゃあ、どうして雅樹はあんなことを…」
「雅樹くんが夏海を大切に想ってくれていることは本当に、本当に心から感謝しています。だけど、夏海が彼を利用しようなんてことあり得ません。それに雅樹くんだって、もうオトナです。彼にだって意思はある」
「よくもそんなことを。あなたに雅樹の何がわかるって言うの!自分の娘のためなら、うちの子がどうなってもいいと?」
「いい加減にしてください!」
怒鳴られた薫はすぐに媚びるような目をして、バッグから封筒を取りだした。
「どうかこれで…雅樹とはもう会わないでいただけませんか」
懇願するように、それを克彦の手に握らせようとする。
「何ですか、これ」
「治療費で何かと物入りでしょうから…」
金だとわかった彼は、その封筒を床に投げつけた。
「どこまで人をバカにしたら気がすむんだ!」
狭い廊下にその声が反響する。
「夏海は今でも信ちゃんのことだけを想って、彼だけを待っています。雅樹くんをどう利用しようって言うんです」
金を投げ捨てられた憤りで、薫は震えていた。
「あんな人殺しが恋人だなんて、こんな田舎じゃ噂も広まって、あなたもさぞかし肩身が狭いでしょうに。現に天宮くんの家族も居づらくなって豊浜を出て行ったじゃない。当然ですよね。まぁ、もともとロクな子じゃないって思っていましたから別段どうということはないんですけれど」
「うちの娘婿になる男を悪く言うのはやめていただきたい!」
「正気なの?あなた、こんなことになっても二人を結婚させるって言うの?気が狂ったとしか思えないわ」
「帰ってください!」
克彦は薫から目をそらせ、夏海の病室に入った。
「話はまだ終わっていないわ」
そんな声を遮るように、彼は扉を勢いよく閉めた。