「愛してる」、その続きを君に
乱れた呼吸を抑えようと、克彦は何度もガサガサの手のひらで顔を撫でた。
なんてことだろう、と眉間に皺を寄せる。
雅樹が最近頻繁に豊浜に帰ってきているとは思っていたが、まさか休学していたとは思いもしなかった。
それも夏海のために…
「…お父さん?」
かすれた弱々しい声に、彼は思いもかけずびくっとした。
「あ、ああ。どうした?」
「…喉かわいた」
足早に駆け寄ると、吸い飲みを手に取る。
「水でいいか」
黙ったまま、かすかに頷く娘。
喉を鳴らしながら、夏海は2口ほど水を飲んだ。
「誰か来てたの?」
「いいや、どうして」
「大きな声がしたみたいだったから」
「ああ、あれは…なんでもない」
克彦が無理に笑い顔を作ると、そう、と夏海は再び目を閉じた。
午後9時になると、克彦は病室の明かりを消した。
夏海の横に用意された簡易ベッドにそっと横になる。
パイプ製なので、ゆっくりと動かないと思いもかけず大きな音を立ててベットがきしむのだ。
閉じたカーテンの隙間から、月明かりが彼らの部屋に細い筋となってさしこむ。
克彦は流れ出てくる涙を何度も指の腹でぬぐうと、娘の寝息に耳をすませた。