「愛してる」、その続きを君に
「ナツ、俺を置いてくなよ」
少しすねたように信太郎が言うと、彼女は目を細め背伸びをした。
しっとりとした柔らかな唇が、彼のそれに触れる。
ほんの数秒間のことだった。
顔を離した彼女は、どこか寂しそうに笑った。
「ナツ」
今度は、信太郎の方からその唇を求めようと手を伸ばしたが、ひらりと彼女は身をかわす。
「信ちゃん」
「なんだよ」
「私、先に行って待ってるから」
「なんでだよ?一緒に行けばいいだろ」
信太郎自身、自分達がどこに行こうとしてるのかわからなかったが、とにかく彼女と離れたくない一心でそう言った。
離れたら、もう二度とその手をつかむことができないと思ったからだ。
「それは無理」
「なんで」
「なんでも」
そう言ってくすっと彼女は笑って背を向ける。
「ふざけるなって」
信太郎は胸騒ぎがして、彼女の腕をつかもうとした。
その時、砂が風にあおられて彼の視界を遮った。
目を開けていられないほどの、まるで砂嵐。
「おい、ナツ!」
辛うじて片目をうすく開けるも、その姿は舞い上がった砂で見えなかった。
「ナツ!」
「信ちゃん」
柔らかな声だけが耳元でこだまする。
「どこだよ!」
「信ちゃんはゆっくり、ゆっくり来て」
「何言ってんだよ」
「私、先に行って待ってるから」
声がしだいに遠ざかっていく。
「おい!待てよ!」
「…信ちゃん」
「ナツ!どこだよ!ナツ!!」
ゴォッと砂の柱が信太郎を飲み込んだ。
「ナツ!」