「愛してる」、その続きを君に
次の瞬間、目にうつったのは暗い灰色の天井だった。
一瞬息をするのも忘れていた。
咳き込むように肺にたまった空気を吐き出すと、彼はゆっくりと上半身を起こした。
荒い息づかいの合間に、ごくりと喉をならして唾を飲み込む。
夢か、そう小さく呟いた。
冬だというのにねっとりとした心地悪い汗が、首筋や背中、胸元にまとわりつき、冷たい空気に皮膚が冷たくなっていた。
何となく嫌な夢だった。
夏海が手の届かないところへいってしまう、そんな夢だった。
信太郎は何度も顔をこすった。
自分に関わらないほうがいい、そう思って自ら連絡を断ったはずなのに。
未練がましいと今更ながらにそう思う。
ごろん、と腕を枕にして横になる。
格子窓からのぞく月の形と位置で、だいたい何時かの予想がつくようになっていた。
しかし、もう拘置所のこの房とはおさらばだ。
明日からは刑務所での生活が始まるのだ。
懲役3年2ヶ月、それが彼に下された判決。
拘留されていた期間を差し引いても、2年半は確実に塀の中だ。
窓に背中を向けると、先ほどの夢のことを考え始めた。
もう眠れそうになかった。
あの夢を思うとなぜか心が騒ぎ、いいようのない不安が押し寄せてくる。
彼女の最後の言葉が頭の中で何度もこだました。
『サキニイッテ、マッテルカラ…』