「愛してる」、その続きを君に
顔を向けると、最後に会った時よりもずいぶん大人びた顔つきになった青年が立っていた。
なにやら紙袋を持っている。
そしてその表情はどこか硬い。
「話があるんだ」
その青年はそれだけ言うと、背を向けて坂を下り始めた。
黙って彼も後に続く。
久々の再会にもかかわらず、喜びあうことも、言葉を交わすこともなく、ふたりは一定の距離を保ったまましばらく歩き続けた。
ついた先は豊浜の砂浜。
夏には多くの海水浴客でにぎわう。
秋の終わりを告げようとする今は灰色の海と空が一面に広がり、打ち寄せる波もどこか荒々しくて、彼にとってはどこか責められているような気がしてならなかった。
前を歩いていた青年は浜辺の真ん中辺りまでくると、ゆっくりと振り返り「連絡をくれないから随分心配したよ。元気だった?」と訊いてきた。
「まあな」
彼は少し歪んだ帽子のつばを直しながら答える。
「おまえは?もう大学を卒業したのか?」
彼の質問に相手は笑って首を横に振った。
「ううん、医学部は6年制だからまだだよ。しかも、留年しちゃってね」
彼は唇を緩めると、「この町きっての秀才、辻本雅樹にもうまくいかないことがあるんだな」と返した。
「うまくいかないことだらけだよ。特に恋愛はね」
「……」
言葉が見つからず、彼は無意味にまた帽子のつばに触れる。
「俺に聞きたいこと、いっぱいあるよね。遠慮なく訊いてもらっていいよ。そのつもりで今日はおまえを待ってたんだから」
「んなもん…ない」彼は足元の砂を軽く蹴った。
嘘だった。
気になって気になって、一番に訊ねたいことがあったのに。
あいつは?、
あいつはどうしてる?
その言葉が頭の中でぐるぐる回っていた。
蹴りあげた砂がはらはらと落ちて行く。
「じゃあ、俺から話をさせてもらうよ」
雅樹はそう言って、紙袋の中から何やら麻紐で結わえた大量の封筒を取り出した。