「愛してる」、その続きを君に
大切そうにそれらを抱えると、彼の元へと歩み寄ってきた。
まっすぐにその目を見つめながら。
決してそらすことなく。
彼は反射的に目を伏せた。
親友だった雅樹にも責められていると思ったから。
これ、そう言って彼の手に封筒の束を委ねる。
思いのほか重くて、片手で受け取った彼はすぐにもう一方の手を添えた。
「何?」
「読めばわかるよ」
雅樹にそう言われ、紐をほどき一番上にあった宛名のない封筒を一通手にとる。
残りの束を脇に抱えると、中から便箋を取り出した。
「なんだ、これ」
殴り書き…そんな力強い表現には語弊があるくらいのあまりにも弱々しい線が、縦横無尽に便箋全体に走っている。
何も答えない相手に、彼はもう一通の封筒から便箋を抜き出した。
中身は同じだった。
次の便箋にも、次の便箋にも弱々しい線だらけ。
「何なんだよ」
からかわれたような気がして、彼は封筒の束を突き返そうとした。
それを雅樹は強い力で押し返すと、低く震える声でこう言った。
「いいから、全部読むんだ」
それに圧倒された彼はしぶしぶ砂の上に腰をおろし、封を開けていった。
弱々しかった線が次第に何かを描いているのではないかと彼は思い始める。
いや、描いてるんじゃない。
書いているんだ。
ようやく文字を書いているんだ、と気付いた。
ある便箋の一番上の線がどうにか読めそうな気がして、彼は人差し指でそれをなぞってみた。
「し、ん…」
その瞬間、胸を突き刺されるような痛みを感じた。
そして時をおかず、全身が震えだした。
そう、そこには「しんちゃんへ」と書かれてあったのだ。
今にも消え入りそうな線で。
投げ出したバッグから彼は同じような封筒の束を取り出した。
彼宛に拘置所や刑務所に送られてきた手紙の数々。
それは刑務官のチェックのために一度は開封されてはたが、彼は一度も中身を見ようとはしなかったのだ。