「愛してる」、その続きを君に
克彦が急須から茶を注ぐ。
信太郎と自分の湯呑みが満たされると、おもむろに彼は口を開いた。
「さっきは殴って悪かった」
いえ、とだけ言って信太郎は軽く頭を下げる。
無造作に急須を置く、ゴンッという音がした。
ここは佐々倉家。
居間にはこの卓袱台と小さな箪笥が置いてあるだけだ。
「独り暮らしになってからテレビを観ようって気がおきなくてな」と信太郎の目の動きに気付いたのか、克彦が痩せた笑みを浮かべながら言った。
「おじさん、仕事は?」
「ああ、今日は急用ってことで休ませてもらった」
克彦はあぐらをかくと、一口茶を飲んだ。
しばらく沈黙が流れる。
その気まずさを振り払うかのように克彦は「ほら、正座なんて信ちゃんらしくないな。足崩して、崩して」と手をひらひらと振った。
それに応じることなく、信太郎は目の前に座る恋人の父親を見据えて言った。
「さっきの答えなんだけど」
「は?答え?」
「ナツのことをどう思ってたか、っていう…」
「ああ、あれか。いいよ、気にするな。俺もついカッとなってな。もう信ちゃんは罪を償ってきたんだ。夏海のことは忘れて、新しく生まれ変わったつもりでやっていけばいい」
その言葉に、信太郎はゆっくり首を横に動かした。