「愛してる」、その続きを君に
もう幾日、外の空気を吸っていないのだろう。
朝が来て、夜が来て、また朝が来て夜が来る。
そんな毎日が季節をいくつも越えていった。
その変わらぬ繰返しの中、ただじっと横たわっているだけなのに、空腹と喉の渇きを感じる。人間とはつくづく卑しい生き物だと思う。
死んだも同然なはずなのに、生まれながらにして備わった欲望はむくむくと沸き上がってくるのだから。
信太郎はふらふらと廃墟のような自宅を出た。
足に力が入らない。
民家の壁をつたうようにして、坂をゆっくりと降りていった。
ポケットの中の小銭をまさぐる。
顔をしかめて、もう片方のポケットの中にも手を突っ込んでみた。
「マジか…」
歪んだ表情と共に、大きなため息が出た。
金がないのだ。
手のひらには、菓子パンひとつ買えるかどうかほどのわずな金額。
情けなさに全身から力が抜けた。
「やってらんないな」
豊浜の砂浜まで来ると、彼は大の字になって寝そべった。
もうどうにでもなればいい。
今ここで大きな波が打ち寄せて、この身をさらっていってくれたならどんなにいいか。
海の泡となって跡形もなく消えてしまえたら、どんなに楽か。
自分が今ここで死んだって、悲しんでくれるのは身内だけだ。
いや、家族さえも罪を犯して何もかも壊してしまった自分のことなんて、忘れ去りたいだろうに。
あーあ、とうっとうしいほどの太陽の眩しさに瞳を閉じた。
それでも、明るい光はまぶたを通して信太郎の目を射すようだった。