「愛してる」、その続きを君に
次の日、信太郎は小さな教会の前に立っていた。
庭仕事をしていた初老の男性が彼に気付き、「やぁ、君か」と帽子をとった。
脚立からそろりそろりと降りてくると、その男性は笑みを称えながら、信太郎に近づき、握手を求めた。
神父の山根だった。
彼は「なんだかさっぱりした顔をしているね、憑き物が落ちたみたいだ」と差し出した信太郎の手を強く握った。
「はい、俺なりにいろいろと考えたんです」
「で、答えは見つかったのかね」
いいえ、と信太郎は首を横にふったがすぐに「でも道しるべを見つけることができました」と教会の屋根に輝く十字架を見上げた。
「一生納得のいく答えなんて見つからないかもしれません。だけど、この命が尽きるまで探し続けたいと思っています」
そんな彼の言葉に山根もならって天を仰ぐ。
真っ青な空に向かって突き立てられたそれは太陽の光を浴びて、金色に輝いていた。
「失ったものはあまりに大きいけど、まだ持ってるものがたくさんある」
向き直った山根に、「って、神父さまはおっしゃったでしょ」と信太郎は肩をすくめた。
「そうだったね」と相手も白い歯を見せた。
笑いが一段落すると、改まって信太郎は言った。
「今日はお願いがあって来ました」
「何でしょうか」
山根の首からかけられたクロスのペンダントが揺れた。
「神父さま。これから俺にいろいろと教えてくれませんか」
低いけれど、とても力強い声だった。
「俺、一生懸命生きていきたいんです、這いつくばってでも前に進みたいんです」
山根はそんな信太郎の手を両手で包み込みながら、「よくいらっしゃいましたね」と優しく微笑み返した。