「愛してる」、その続きを君に
「それを聞いて、あいつも喜んでるだろうな」
自然に笑みのこぼれた彼に、綾乃がすかさず「あなたは夏海さんの話になると、すぐ顔がゆるむのね」と突っ込んだ。
そんなことないさ、そう返そうとしたが、いやまてよ、まんざらでもないなと信太郎はもう一度えくぼを作った。
そんな彼に綾乃がぽつりとつぶやいた。
「これがふたりの愛の続き、ね…」と
信太郎は笑みを引っ込めると鼻の頭をかいた。
『私たちの愛してる、その言葉の先を見たい、感じたい。なのにその続きを私は夢見ることすらできない』これが夏海が最期に残した言葉だったからだ。
綾乃は目を細めた。
「それを初めて聞いたときは、なんて悲しくて、どこまでも切なくて絶望的なんだろうって思ってたけれど」と一度彼女は口をつぐんだ。
信太郎がそんな彼女に目で先を促した。
「でも今はとっても夢があって、素敵なフレーズだと思うの。だって、天宮くんはちゃんと彼女にその続きを見せてあげてる。現にあなたは生まれ変わって、新たな第一歩を踏み出した」
小さな教会に目をやった綾乃。
「こんなこと、誰にでもできることじゃないわ」
「そんなことないさ。ただ俺にはナツしかいないんだってことを、あいつに伝えたかったんだ。そうしたら、こうなったんだよ」
「ま、おのろけね」
「そう聞こえたのなら仕方ないな」
「はいはい、ごちそうさま」
お互いの言葉に吹き出すと、信太郎は眩しそうに海を見た。
「でもまだまだだ。もっとちゃんとした形にしてあいつに見せてやりたいんだ」
クロスのペンダントを彼は握りしめた。
「俺たちが一緒に過ごした時間を、これからもずっとナツを愛してるってことを、はっきり目に見える形にしたいんだ」
綾乃は何も言わずに海風になびく艶やかな髪をかきあげた。