「愛してる」、その続きを君に
「あ、こんな俺が無理だって思っただろ?」
信太郎が意地悪な視線を送ると、意外にも彼女は真剣な表情で「思わないわ」と首を横に振った。
「今の天宮くんならきっとできるから。夏海さんだって、次はあなたがどんな愛の続きを見せてくれるのか、きっと楽しみにしてるわ」
思わぬ賛辞の言葉に照れ笑いしながら、彼は彼女に向き直った。
「綾乃」
「なあに?」
その整いすぎたといっても過言ではない彼女の顔を、信太郎は知らず知らずのうちに凝視していた。
「なんなの?」
「いや、君にずっと伝えたかったことがあるんだ」
信太郎が気恥ずかしそうに笑うと、彼女は「あら、何かしら」と両手を前できちんとそろえ、おどけた。
ふたりの間に静かな笑みが通う。
「本当にありがとう」信太郎は穏やかにそう告げた。
彼の言葉が意外だったのか、綾乃は二、三度目をぱちくりとさせた後に「どういたしまして」と照れたようにうつむいた。
そして「さてと、そろそろ準備しなくちゃ。まさかこの年でウェディングドレスを着るなんて思ってもいなかったから、緊張しちゃうわ」と肩をすくめた。
「雅樹も楽しみにしてるよ、もちろんのぞみも」
そう信太郎が返すと、綾乃は微笑んで彼の横を通りすぎた。