「愛してる」、その続きを君に
小さな教会に信太郎の声が響く。
彼と新郎新婦、のぞみ、4人だけのささやかな誓いの儀式。
「愛は寛容にして慈悲あり、愛はねたまず、愛は誇らず、高ぶらず、非礼を行わず」
天窓から射し込む光が、雅樹と綾乃を包み込んだ。
信太郎は次の言葉に、ありったけの想いをこめた。
「愛はいつまでも絶ゆることなし」と。
ささやかな宴も終わり、辻本一家は幸せそうな笑みを称えながら、帰路についた。
彼らが去った後にどっと押し寄せてくる静寂。
信太郎はダイニングの電気を消すと、2階にある自室に入った。
暗闇の中、手探りで明かりのスイッチを探る。
パチッという音と共に、やや薄暗い光が部屋を包んだ。
天井を見上げると、蛍光灯のあちらこちらが黒ずんでいる。
「もうちょっとがんばってくれよな。今月、ピンチなんだ」
蛍光灯にそうお願いをすると、彼は学生時代から使っている勉強机の前に座った。
いつもと変わらない静かな夜。
何かを思い出したかのように彼は立ち上がると、机の前の窓を大きく開けた。
ふわりと沈丁花の匂いが舞い込む。
優しい気持ちになれるその花の香り。
ああ、隣の家の庭に沈丁花があったなと思いながら再び腰を下ろし、しばらくの間真っ暗な海をぼんやりと眺めていた。
一定のリズムを刻みながら、灯台の光が低い空に浮かんでは消える。