「愛してる」、その続きを君に
そして視界の右端にあった船の灯りが左へと移動し、やがて消えた。
おもむろに彼は机の引き出しを開けた。
大したものなど入っていない。
ノートやメモ用紙、筆記用具といった類のものと、昔天体望遠鏡で撮った惑星の写真ばかりを集めた小さなアルバム。
そのアルバムを手にすると、パラパラとめくってみた。
いつどこで、どんな天候で撮ったのかを細かく記したメモがついている。
しばらく観てないな、と信太郎は押し入れから埃にまみれた天体望遠鏡を取り出した。
うっすらつもった綿ぼこりに、ふうっと息を吹き掛けると、思わずむせてしまった。
それを手に信太郎は部屋を出るも、電気を付けっぱなしだったことを思い出して慌てて戻る。
「消灯確認」そう指差してから、階段を下りた。
庭に三脚を立てると、手際よく望遠鏡をセットする。
今日はまるで研ぎ澄まされた剣のような三日月だ。
「やっぱり春は霞で星はあまりよく見えないな」
誰にともなく、呟く。
随分前に、彼女と並んで春の夜空を見上げたことがある。
あれは意地を張っていたお互いの気持ちが、ようやく通じ合った夜だった。
こんなぼんやりとした星空の中で唇を重ね、そして彼は約束したのだ。
いつか満天の星空を見せてやる、と。
信太郎は胸にかけた十字架が施されたペンダントを、手のひらに置いた。
小さなつまみを押すと、楕円形を成していたそれはぱっくりと二つに開いた。
ロケットペンダント。
今どきそんなもの、と笑われることもあるが、彼は全く気にしない。
中には、柔らかそうな髪をなびかせながら笑う一人の若い女の写真が一枚。