「愛してる」、その続きを君に
その彼女に呼びかける。
「なあ、ナツ。今夜みたいなのを月の船っていうんだ」
昔、何かの本で読んだことがある。
夜空の海に浮かぶ、金色に輝く船。
その船は、愛しい人への想いをのせて、夜の空を渡ってゆくのだ、と。
信太郎は思う。
あの船がおまえにこの気持ちを届けてくれたらいいのに、と。
せっかく望遠鏡を出したのに、のぞく気にならなかった。
レンズを通して星を見るのはひとりだ。
だが、こうして見上げていれば隣に夏海がいる気がする。
彼女と同じものを、今見ている気がする。
ペンダントをにぎりしめて、信太郎は言う。
「そういや、岡山の美星町に連れてってやるって言ってたのに、まだだったなぁ」
あの降り注ぐような空一面の星を見たいと、楽しみにしていた夏海。
「連れてってやるよ。どうせなら空気が澄んでる冬がいい。よし、クリスマスにおまえを美星町に連れて行くよ」
ペンダントの彼女が首を傾げたように見えて、彼は笑った。
「旅費?まぁ何とかなるって。足りなかったらヒッチハイクでも何でもすればいいんだからさ」
また手のひらで彼女が首を傾げた気がした。
信太郎には、彼女が「またそんないい加減なこと言って」なんて頬を膨らませているように思えた。
「大丈夫だって。必ず最高のクリスマスプレゼントにしてみせる」
彼はペンダントをにぎりしめて、空を仰いだ。
「必ず、連れていってやる」
部屋に戻った彼は、机の引き出しから取り出した便箋とペンを目の前にして瞳を閉じていた。
そして何かを決意したかのようにペンを動かし始めた。