「愛してる」、その続きを君に
幟の立った長い石段を上り切ると、境内に続く石畳に沿って何十もの露店が向かい合って軒を並べている。
少し歩みを進めたところで、「あー、かわいい風鈴!」と夏海が駆け出すと、「はじまったぞ」と言わんばかりに残された男ふたりは顔を見合わせた。
よくもまぁこんな子供だましの小さな縁日で欲しいものが見つかるものだ、と彼らは思う。
彼女が駆け込んだ露店は、木枠で囲まれた小さな店の至るところにガラス製の風鈴がひしめき合うように吊り下げられていた。
それらを鳴らせようと、強面の店主が扇風機の角度を調整しているところだった。
オレンジがかったライトの中で、たくさんの風鈴たちはキラキラと輝き、作り出された風にリンリンと鳴る。
透明なガラスに描かれた様々な模様。
「わぁ、どれにしよう」
夏海は一人、露店の屋根を見上げた。
降ってきそうなほどのカラフルなガラスの玉たち。
「ナツ、買うなら帰りにしろよ」
追いついた信太郎が、首だけを彼女に向けて言った。
そんなことはおかまいなしに、夏海は目を輝かせて「悩んじゃうなぁ」とひとつひとつを見つめる。
信太郎は溜息を一つつくと、「これがいいじゃん」と背後から彼女の真上にあるひとつを、人差し指で突っついた。
ご指名を受けたそれは、リリリンと嬉しそうに声を上げる。
「どれ?」
夏海が顔を上げると、自分を見下ろす信太郎と目が合った。
しかし彼女はすぐさま、彼の指差す方に視線を移す。
「ドクロぉ?」
あからさまに渋い顔で彼女は言った。
「気持ち悪い」
「ばか。ドクロって言うからだろ。スカルって言え、スカルって」
「でも、気持ち悪いのに変わりないもん」
「ちぇっ、せっかく薦めてやったのに」
そんな信太郎と再び目が合う。