「愛してる」、その続きを君に
扇風機の風が頭上をかすめると、風鈴たちが一斉に優しい音でふたりを包み込んだ。
夏海の瞳が一瞬揺れるも、信太郎は決して彼女から目をそらすことをしなかった。
光の中で見つめ合うふたり。
「なっちゃん」
ふいに雅樹が呼んだ。
「あ…え?なに?」
我に返った夏海は視線を雅樹に向け、結いそこねて少し落ちた髪を耳にかけた。
「これはどう?」
彼の指差した先には、真っ赤なハイビスカスが描かれた風鈴がひとつ、生暖かい風を受けて、周りと一緒に揺れている。
「わ!かわいい!さすが、マー君。女の子の好みをしっかりとおさえてる。誰かさんとは違うなぁ」
そう言ってその風鈴を見上げた。
「おじさん、これ見せて」
「あいよ」
ノソノソと小柄な店主は立ち上がると、踏み台を持ち出した。
「ナツ、これは?これならおまえも気に入るって」
続いて背後から信太郎の声が届く。
振り返りながら、「信ちゃんはセンスが悪いからヤダ」、そう言おうとして口をつぐんだ。
背の高い彼は手を伸ばし、店主の断りもなくその一つを手に取っていた。
彼の手の中で揺れる風鈴には、赤い金魚が長い尾をはためかせるように泳ぐ姿が描かれている。
「かわいい…」
思わずそう口から言葉が漏れる。
「だろ?」
「うん…」