「愛してる」、その続きを君に
信太郎はしきりに膝を揺らせていた。
あと2年もすれば、高校を卒業する。
社会に出るのか、大学に進学するのか…。
その時、自分は一体どんな道を歩んでいるのか、想像すらできない。
雅樹は医者を目指すと言っていた。
周囲の友達もおぼろげだが、だいたいのメドはついている、といった感じだ。
俺は何もかも中途半端だ、夢も、将来の見通しも、そして恋愛も…
彼は周りに聞こえるくらいの大きな舌打ちをした。
カフェから出た後、信太郎は歩きながら、どうしたものかと思案していた。
すっかり忘れていたのだ、今日がホワイトデーだということを。
男子校なので、恋人がいるやつなんてほんの一握りだ。
したがってクリスマス、バレンタインデー、ホワイトデーというカップルが関係するイベントの話題なんて滅多にのぼらないのだ。
世間の色恋沙汰にはめっぽう弱くなる、これが男子校のデメリットだと信太郎は思う。
隣では、小柄な綾乃がどこかしらウキウキしたような足取りで歩いている。
きっと信太郎からのチョコのお返しがあると思ってのことだろう。
ちょうど1ヶ月前。
赤い小箱を綾乃は恥ずかしそうに彼に差し出した。
「何これ」
「もぉ、ほんっとに天宮くんはイジワルなんだから」と頬を膨らませる。
「バレンタインのチョコでしょ」
ああ、そうだっけ?と頭の中で日付を確認する。
例年のように、「どんなチョコがいい?ホワイトチョコ?それともナッツ入り?」と注文を聞きに来る幼なじみが今年は、いや去年から口をきいていないものだから、もうそんな時期だということを忘れていた。
お互いを避けはじめて、もう1年以上経つんだな、と改めて思う。
「あ、そっか、ありがと」
「やだ、本当に今日がバレンタインデーって忘れてたの?」
あらゆる店が大々的に赤やピンクのハートのモチーフを掲げているのに、なんで気付かないの、と言いたげな顔で綾乃は辺りを見回す。