「愛してる」、その続きを君に
暗くなった空を見ながら、雅樹は19時過ぎの豊浜駅着の電車を待っていた。
夏海と共に一度家に帰り、着替えてからまたここに一人戻ってきたのだ。
5分ほどしてから、踏切の警報機の音が辺りに響く。
電車が悲鳴のようなブレーキ音を轟かせ小さなホームに滑り込んでくると、どこにいても目立つ長身の男が、数人の客と共に春先の強い風に身をさらしながら電車から降りてきた。
気持ちを沈めるために、彼は何度か深呼吸を繰り返した。
信太郎というやつはどうしてこうなんだろう、自分の気持ちを偽るせいで、その思いのはけ口があんな行動になって表れるのではないか、彼はそう思えてならない。
雅樹は知っているのだ。
自分の夏海への想いに信太郎が気付いていることも、そして信太郎自身も夏海が好きだ、ということも。
なのにあえて彼女を遠ざけようとするのは、自分に気を遣っているからだということも。
本当は両想いの信太郎と夏海がすれ違い続け、それに甘んじて彼女のそばにいる自分が心苦しい。
だけど、夏海を傷付けることだけは断じて許さない。
「おー、雅樹。どした?」
信太郎が屈託のない笑顔で手を上げた。
「話があるんだ」
「なんだよ、気味が悪いな、改まっちゃってさ」
雅樹は人の目を気にするかのように辺りを見回すと、場所を変えようと言った。
しばらく無言で進んだところで、
「もう、なんなのよ、マーくんてば」
茶化すように信太郎が夏海の口調を真似た途端、雅樹はものすごい形相で胸ぐらをつかんだ。
そしてそのまま、誰ともわからない家の塀に彼の背を押し当てる。
「おい!何すんだよ!」
突然のことに信太郎も声を荒げる。