「愛してる」、その続きを君に
そんな彼に、雅樹は乱暴な動作からは想像もつかないほど弱々しく、懇願するように言った。
「もうやめてくれないかな、カノジョと駅前でイチャつくのは…」
心当たりがあるかのように信太郎は眉をひそめたが、「何のことだよ」ととぼける。
無言のまま雅樹が胸元の手に力を入れると、その圧迫感に信太郎は顔を歪めた。
「なんで雅樹にそんなことを言われなきゃいけないんだよ」
夏海のことを気にかけて言ってることくらい容易に想像できるが、彼はわざとそう言った。
「頼むよ、あの駅前だけはやめてくれないか。他の場所ならおまえらが何をしようがかまわない」
見られたのだ、綾乃とのことを。
夏海もきっと見たに違いない。
でも、当然だ、あんな人通りの多いところでキスをしたんだから、と信太郎は半分開き直った気分になった。
「いいだろ、別に」
「頼むよ…」
雅樹の苦しげな顔に、今度は無性に腹が立ってきた。
「そんなにナツが好きか」そう口をついて出てきそうな言葉をかろうじて飲み込んだ。
雅樹はいつだってそうだ。
夏海のそばにいて彼女を見つめ、悩みを聞いたり、困った時には手を差し伸べ、時折流す涙を拭ってやることもあるだろう。
夏海のために一生懸命になれる。
胸を張って、彼女に好きだという資格を持っている。
それが悔しい。
それが信太郎にはできない。
自ら手離してしまった恋を後悔しても始まらないが、この気持ちは行き場もなければ、ぶつけるところもないのだ。