「愛してる」、その続きを君に
二人の青年は何事もなかったかのように、夜道を歩き出す。
空には霞みがかった満月が浮かんでいる。
「なぁ、雅樹。今夜は朧月夜だな」
「ああ…せっかくの満月なのに」
今夜の月の形はわかっているのに、霞みが邪魔をして、その真の姿を朧ろげにさせるのだ。
まるで俺たちみたいだ、と彼らは思う。
この小さな港町で育った幼なじみ三人の恋は、もう決着がついている。
夏海は信太郎を想い、信太郎は夏海を想う。
それを知りながら、あきらめきれない恋に身を焦がす雅樹。
これが「真実」だ。
けれど、三人は知らないふりをする。
わかっているのに、わからないふりをする。
意地が、プライドが、そして友を思う気持ちが霞となって、その「真実」を曇らせる。
「雅樹はさ…ナツのことが好きなんだろ?」
彼は穏やかに答える。
「大事な幼なじみだよ」と。
嘘だとわかっていても、それ以上何も言えない。
すると逆に雅樹が訊ねる。・
「いい加減、なっちゃんと仲直りしたら?」
「…今さら何言ってんだよ」
アスファルトに照り返す外灯の白い光が冷たく感じる。
ふたりの影が、その光に長く伸びた。